長い間, スタジオ撮影や風景撮影でプロが使うカメラと言えば一眼レフカメラと相場が決まっていましたが, 近年ではソニーやマイクロフォーサーズ陣営の急成長もあってか特に風景撮影やポートレート撮影などの現場でもミラーレスのシェアが高まりつつあります. そんな中遂にNikonから本格的なミラーレス機「Nikon Z7」と「Nikon Z6」が発売されました.
どんなカメラ?
機種 | Nikon Z7 | Nikon Z6 |
発売日 | 2018年9月28日 | 2018年11月23日 |
有効画素数 | 4575万画素 | 2450万画素 |
常用ISO感度 | 64〜25600(拡張: 32〜102400相当) | 100〜51200(拡張: 50〜204800相当) |
AF測距点 | 493点 | 273点 |
連続撮影 | 5.5コマ/s(AF/AE追従), 9コマ/s(AFのみ追従) | 5.5コマ/s(AF/AE追従), 12コマ/s(AFのみ追従) |
動画 | 4K 30p動画撮影可能(フルフレーム読み出し) | 4K 30p動画撮影可能(フルフレーム読み出し) |
寸法 | 約134×100.5×67.5mm | 約134×100.5×67.5mm |
質量 | 675g | 675g |
価格 | 約37万円 | 約25万円 |
どちらもニコンのミラーレスカメラです. ニコンは以前にも「Nikon 1」というブランドでミラーレスを作っていましたが, Nikon 1とは完全に別のカメラでマウントの互換性もありません. また, Nikon Z7, Z6は完全にプロの使用を前提とした高画質・高性能な設計です.
従来はミラーレスカメラといえばコンパクトだけど性能が低くて, プロが使うものではないというイメージでしたが, 最近では特にSONYのα7シリーズに代表されるような, 高性能なミラーレスがいくつも登場しており, ようやくニコンからも本格的なミラーレスカメラが登場したのです. CanonからもEOS Rシリーズというプロ仕様のミラーレスカメラが登場していますが, それはまた別の機会に…
また, レンズのマウントが変更されたのも大きな注目を集めました. ニコンはいままで一眼レフでは「Fマウント」を採用してきましたが, ミラーレスでは新たに開発された「Zマウント」を使用します. 要は, ニコンの一眼レフ用のレンズは, そのままではZ7やZ6では使えないということです.
- Z7, Z6はニコンが初めて作った本格的なミラーレスカメラ
- プロの使用を前提としていて, 高性能
- これまでの一眼レフ用のレンズは, そのままでは使用できない
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一眼レフとはどう違うの?
ニコンといえば一眼レフカメラが有名ですが, 一眼レフカメラとはどう違うのでしょうか(あ, わかってる方は飛ばしてください).
「一眼レフカメラ」と「ミラーレスカメラ」. どちらもレンズを交換して本格的な写真を撮影できるカメラですが, その仕組が少し異なります.
一眼レフの場合, カメラの中に「ミラーボックス」という大きな部品があって, これがあるせいでカメラが大きく・重くなってしまいます. 一方でミラーレスカメラの場合, 文字通り「ミラーボックス」がカメラにありませんから, その分カメラを小さく・軽くすることができます.
この「ミラーボックス」があることで, 高性能なセンサーを使ったAF(オートフォーカス)が利用できたり, ファインダーを使って撮影ができました.
これまではミラーレスカメラは特に「オートフォーカスが弱い」とか「電子ビューファインダー(EVF)に違和感がある」という点で敬遠されていましたが, Nikon Z7, Z6は果たしてどうなのかが重要です.
Z7, Z6 両者の特徴と違いは何処に?
外観はα7寄り?
Nikon初の本格的なミラーレスカメラですが, ぱっと見ではSONYのα7シリーズのような見た目です. シャッターボタン周りのボタンの配置は従来の一眼レフに合わせていますが, 背面のボタンはコンパクトデジタルカメラのようです.
α7シリーズと違うのはサブ液晶が搭載されている点で, これがあるだけでも一眼レフユーザーは安心できると思います.
ボタンの配置はD850のそれを継承しているため, Nikonの一眼レフを使ったことのある人なら迷わず操作できると思います. Nikonの一眼レフカメラは新しい製品が登場してもボタンの配置などが大きく変わることがないので安心して使えますね.
ダイヤルはメインとサブの2つで, これも同社の一眼レフと同じ場所にあります. この点については, 露出補正や各種パラメーター用にもう一つダイヤルがあっても良かったのでは? という指摘も見られました.
背面の液晶画面は3.2インチで結構大きめ. もちろんタッチスクリーンです. ただし(ファインダーを覗きながら)タッチパネルでAFポイントを選択する機能は省略されています.
グリップ部は非常によく作られています. これなら大口径望遠レンズを使う時でもしっかりホールドできると思います(ここらへんはNikonらしいと思います).
なお, Z7とZ6に外観の違いはほとんどありません. サイズや質量も同じで, 前面右下の「Z7」「Z6」のエンブレムでのみ両者の違いを見分けられます.
「ニコン史上最高画質」を謳うZ7. Z6は?
Z7について, NikonのWebサイトでは堂々と「ニコン史上最高画質」と宣伝されています.
有効画素数はZ7が約4575万画素. これは同社の一眼レフの高画素モデルであるD850のそれに匹敵しますが, 同じセンサーではないようです(位相差AF用のセンサーが入ってるからね).
一方でZ6は有効画素数約2450万画素. こちらは同社のミドルクラス一眼レフ「D750」よりちょい上といったところ.
Z7はその画素数から手持ちのスナップ撮影といよりも, しっかりした三脚を使った風景写真の撮影やスタジオポートレート向きといったところでしょうか. いくら優秀な手ブレ補正があっても手持ちで4000万画素オーバーの撮影は厳しいと思います.
一方で, DXフォーマットサイズにクロップして撮影する場合, Z7はそれでも約2000万画素は確保できますから, 望遠よりの撮影に期待できますね.
なお, Z7はローパスレスですがZ6はローパスフィルター付きです. おそらく解像度の関係でそれが適切と判断したのでしょう(4000万画素オーバーだとモアレ等も発生しにくい).
ISO感度はZ7が常用〜25600. Z6は〜51200.
ISO感度はZ7が常用で64〜25600, 拡張でISO32〜102400相当までの減感・増感が可能.
Z6は常用で100〜51200, 拡張でISO50〜204800相当までの減感・増感が可能.
Z6の方が高感度設計なセンサーですね. 個人的には画像処理エンジンのExpeed 6(今の所Z7とZ6にしか搭載されていない)がどう働くかも気になるところです.
動体撮影は一眼レフに対抗できるか?
Z7は493点のAF測距点, Z6は273点で, 一眼レフのAF測距点に比べればどちらも画面の広い範囲をカバーしています.
また, コントラストAFや顔認識AFにも対応しているので, マクロ撮影やスナップ撮影に威力を発揮してくれそうです. ファームウェアアップデートで瞳AFにも対応予定とのこと. これには期待.
一方でスポーツ撮影時に威力を発揮する「3Dトラッキング」にはなぜか対応していません. 似たような機能は搭載されていますがネット上の評判を見る限り3Dトラッキングほど補足能力は高くなく, 使い勝手も悪いそうです. ここはファームウェアアップデートで対応してほしいところ.
一方で連写については, 両機種ともAF/AE追従で5.5コマ/s, AFのみ追従だとZ7は9コマ/s, Z6は12コマ/sです. どちらも一眼レフに比べるとミラーアップの必要がないぶん高速ですが, 後述する通りα7シリーズはもっと高速です.
ちなみに価格はZ7が約33万円, Z6が約24万円(どちらもAmazon.co.jpでの価格).
これは完全にInsta○ram. 「クリエイティブピクチャーコントロール」で加工アプリ要らず
Z7/Z6に新たに搭載された「クリエイティブピクチャーコントロール」によって, 本格的なスマホアプリに劣らないような画像加工をカメラだけで行うことができるようになりました. コントラストや彩度の微調整を行える従来のピクチャーコントロールとはまた別で, スマホの画像加工アプリのように, がっつりと変化します.
こういった機能はずっと昔からRICOH GRやオリンパスのミラーレスで採用されていますが, Nikonの高級モデルで採用されるのは意外ですね.
フィルター…じゃなくてクリエイティブピクチャーコントロールの中身は以下の通り, 全部で20種類で, 割とレトロな感じになります.
ついにボディ内手ブレ補正になった
(これはZ7, Z6というよりも「Zマウント」の仕様というべきですが)Zシリーズではボディ内手ブレ補正が基本になるようです.
Nikonは一眼レフに於いては「レンズ内手ブレ補正」を採用してきました. これは文字通り交換レンズの中の一部のレンズを動かすことで手ブレを軽減する方法で, Nikon以外にもCanonやパナソニックが採用しています.
一方でミラーレス大手のソニーやオリンパスは, イメージセンサーを動かして手ブレを軽減する「ボディ内手ブレ補正」を採用しています.
ボディ内手ブレ補正には一般的に
- レンズに手ブレ補正機構を組み込む必要がないので, レンズの設計が容易に, かつ安価になる
- そもそも手ブレ補正に対応していない, 古いレンズでも手ブレ補正が利用できる
- しかし, 特に望遠レンズでは補正の効率が悪くなる
という特徴があります. まぁ最近ではレンズとボディ両方で手ブレ補正を行う機種もありますし, 完全電子化したZマウントではそういったことも容易なはず.
どちらの方法にも長所短所がありますが, これによって手ブレ補正非対応の古いレンズ(マウントアダプターをつけて使えます)を使う時にも手ブレ補正を使えるのは大きな利点だと思います.
なお, 従来のVR対応FマウントのNikkorをマウントアダプター経由で使う場合は, レンズのVRも同時に使うことができるそうです.
4K動画の撮影にも対応
まぁこれは他の一眼レフやミラーレスの多くもすでに対応していますが…
これまでNikonは動画に弱いという印象が強かった(設計の古いFマウントが足を引っ張っているのもある)ですが, 特にZ7はかなりこの分野に力を入れたようで,
- 動画撮影中に自在にAFのON/OFFを操作できる
- AFの感度や速度は微調整が可能
- 約10億7374万色の深い色深度を持つ10bitでHDMI出力が可能
- 動画撮影時でもより効果の高いハイブリッドVR(カメラ内のVRに加え, 電子手ブレ補正を行う)
などなど, 本格的な映像の撮影も可能ですね.
ただ, 私は4Kはおろか動画は全く撮影しないので, 詳しくは語れません(そもそも手元のMacBook Proが厳しい).
Nikon Z7/Z6のEVFって結局どうなの?
一眼レフカメラを使っている方の多くが気になるのは, 「EVFが実用的なのかどうか」だと思います.
Nikon曰く, 見え方が自然になるようにこだわったとのことですが, 実際にZ7のファインダーを覗いてみた感覚ですと見え方もそこまで不自然とは感じませんでした(光学ビューファインダーよりもずっと明るく見えるのは気になりますが).
メモリーカードにご注意! SDカードは使えない. 新規格のメモリーカード「XQDカード」が必要
Nikon Z7/Z6ではSDカードには非対応. 「XQDカード」が必要になります.
聞いたことないという人も多いかも知れませんが, XQDカードはすでにNikonのD5やD850などのプロ向け一眼レフで採用されています. SDカードよりも高速な書き込みができるとのこと.
XQDカードは64GBの製品が1万3千円. SDカードの同じような製品は1万1千円なので, そこまで高いというわけではないかも.
また, Z7もZ6もシングルスロットなのは正直残念なところ. Nikonに限らず他社でもハイエンドクラスのカメラではデュアルスロットが標準になりつつあるので今後登場するであろうより上位の製品での採用に期待したいところ.
気になるZマウント対応レンズは
最初に書いた通り, Nikon Z7/Z6では一眼レフカメラ用のレンズ(Nikon Fマウントレンズ)はそのままでは使うことができません. 従来のFマウント用のレンズを使うには純正の「マウントアダプター FTZ」が必要です. 一眼レフからの乗り換えを検討している人は要チェックです.
大口径&完全電子化! Zマウントの特徴
Fマウントに比べて, Zマウントは
- マウント径が47mmから55mmに大型化した
- フランジバックは16mmで, ミラーレスとしても短め
- 機械的な連携を廃し, AFや絞りの制御は電磁的に行う
という特徴があります.
マウント径55mmは従来のFマウントより大きいのはもちろん, Canon EFマウント(54mm)やSONY Eマウント(46mm)よりも大きいので, 特に大口径レンズや超広角レンズの設計が容易になりますね.
フランジバックはたったの16mmで, これはSONY Eマウント(17mm)やマイクロフォーサーズ(20mm)よりも短く, レンズを外すとすぐそこにイメージセンサーがある感じです.
また, レバーやAFカップリングなどの機械的な連携は一切を廃した設計になっており, カメラのマウント周辺もFマウントのそれに比べるとだいぶスッキリしています. また, ボディとレンズの電子的な連携が強化されているため, 今後もっと便利な機能が登場するかもしれません.
現状Zマウントレンズのラインナップは5本. 今後はもっと拡大していく?
今現在Zマウントレンズは
- NIKKOR Z 14-30mm f/4 S(広角ズームレンズ)
- NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S(標準ズームレンズ)
- NIKKOR Z 24-70mm f/4 S(標準ズームレンズ)
- NIKKOR Z 35mm f/1.8 S(広角単焦点レンズ)
- NIKKOR Z 50mm f/1.8 S(標準単焦点レンズ)
の5つが用意されています.
現在は広角・標準域のズームレンズと単焦点レンズのみですが, 今後もっと単焦点レンズや望遠レンズのラインナップが増えることに期待したいですね(ただし, Nikonはマウントの仕様を他社に公開しない方針だそうですが).
気になるFマウントとの比較は?
参考までに, Zマウントの50mm f/1.8と, 従来のFマウント用の50mm f/1.8の性能を比べるために, 双方のMTF曲線を用意しました.
赤い線と青い線が上にあればあるほどコントラストが高く, 細部までぼやけずに写るレンズと言われていますが, この比較を見る限り新レンズには期待できそうですね.
最大のライバル!? SONYのα7シリーズはどうか
Nikon Zシリーズ最大のライバルは言わずもがなSONYのα7シリーズでしょう. 参考までに, 高画素モデルであるZ7とα7R IIIを比較してみました.
Nikon Z7 | SONY α7R III | |
発売日 | 2017年11月27日 | 2018年9月28日 |
センサーサイズ | フルサイズ | フルサイズ |
有効画素数 | 4575万画素 | 約4240万画素 |
ISO感度 | 64〜25600(拡張: 32〜102400相当) | 100〜32000(拡張: 50〜102400) |
AF測距点 | 493点 | 位相差検出: 399点, コントラスト検出: 425点 |
連続撮影 | 5.5コマ/s(AF/AE追従), 9コマ/s(AFのみ追従) | 10コマ/s (AF/AE追従), 連続76枚 |
動画 | 4K 30p動画撮影可能(フルフレーム読み出し) | 4K 30p動画撮影可能(フルフレーム読み出し) |
寸法 | 約134×100.5×67.5mm | 約126.9×95.6×73.7mm |
質量 | 675g | 657g |
カードスロット | XQDカード | SDカード(UHS-II対応) 2つ |
価格(Amazon.co.jp参考) | 約37万円 | 約29万円 |
発売日が1年以上空いているとはいえ, 画素数やISO感度についてはZ7の方が上ですが, 連写性能はα7R IIIの方がずっと上です.
製品紹介ページではどちらも4K動画撮影についてページを割いている印象でした. Nikonは「動画に弱い」と言われていたので, 名誉挽回を狙いたいところ.
カメラの寸法・質量についてはどちらも大きな違いはありません. 尤もこの部分はつけるレンズによって大きく変動する部分でもありますが.
メモリーカードスロットはZシリーズがXQDカード採用なのに対し, α7シリーズは今の所すべてSDカードスロットです. XQDカードを製造しているのはSONYなんですけどね…
気になる価格はZ7の約37万円に対し, α7R IIIは29万円. 価格だけでいうならSONYのフラグシップのα9と比較するべきだったかもしれませんが, まぁそれはいずれNikon Zシリーズのフラグシップが出たときに…
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まとめ
Z7もZ6も最初の製品としては完成度が高いと思います. 3Dトラッキングが搭載されないのは残念ですが, 静物撮影に限っていれば現在の一眼レフを上回る性能・使いやすさがあると思います.
気になるのはレンズのラインナップで, 大口径なのとフランジバックの短さを生かした高性能なレンズに期待したいところです.
上述した通りNikonはZマウントの仕様を他社に公開しない方針で, シグマやタムロンなどのレンズメーカーからどれくらいレンズが登場するのかです. Fマウントのレンズをすでに持っている方はマウントアダプターを使うことができますが, そうでない人にとってはマイナスポイントにしかなりません.
カードスロットがデュアルスロットでない点などを見るに, ミラーレス機は(Z7とは)別に登場しうることは間違いない! と思います. 個人的には画素数は2〜3000万画素台でいいので(それでも多すぎるくらいですが), 動体撮影ガチモデルがほしいな〜とも.