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どこか懐かしい、田舎の風景に思いを馳せる。
田舎や山間地域を通るときに、ふと目に入った風景に「いいなぁ」「こんなところで暮らしてみたいなぁ」と、なんとなく思ったことはないでしょうか?
山迫る集落、茅葺き屋根、棚田やあぜ道、その間を流れる清流…。自分の故郷であるわけではないのだけど、どこか懐かしく憧れるような風景。最近だと「エモい」…といった表現の仕方もありますね。
言語化するのはややこしくて難しいけど、色んな素敵な要素が合わさって、なんか良い。
私はそんな風景を写真で表現することを、写真撮影の中での一つの目標としています。
今回はこれまでに私が求めてきた憧憬、日本の原風景とその撮影プロセスを紹介していきます。
集落のある風景を撮る。集落風景写真
街との対比
長野県長野市のある集落。
地方都市として栄え、新幹線も通る長野市街。人口の多い市街からすぐ近くの山には、昔ながらの風景が広がっています。
赤いとたんに覆われたこの屋根の形。昔は茅葺屋根だったのでしょう。
まるで寄り添うように集まった家々が遠くの市街を眺めているようです。
集落と市街が対角線上に配置されたこと、市街は夕日に照らされ集落は山の陰に入ってしまっていること。この2つの要素が集落と市街のの対比を強めています。
山の奥行
長野県南部の山間集落にて。
斜面に形成された家や蔵、そして畑。こういった場所では、暮らしはほとんど自給自足で賄えているのでしょう。
山深くへ行くほど、人々は生活の様々な要素を自分で作り、組み立てながら暮らしています。
都会での暮らしとここでの暮らし…同じ時間が流れているということが信じられないくらい、穏やかな空気が流れています。
先ほどの写真と同じように集落を画面下部に配置しつつ、谷越しにできるだけ遠くの山が写り込むように構図を作りました。
構図についてはこちらの人気記事が参考になります
→写真をより面白くする!映える構図・アングルのテクニックと基本パターン10選
迫るような山
長野県北部にて。
山に従えた集落と畑。こうやって見ると、ある意味山村集落は大都会よりも集約された形態をしているようにも思えます。
集落の写真を撮るときは、その全景を望遠域で撮影したいと考えています。圧縮効果により集落のまとまり感を表現でき、背景を強調できるからです。
後ろに迫る山の稜線を画面の枠ギリギリに配置し、緊張感を出してみました。集落の位置は三分割構図に準拠した配置にすると、安定した構図になります。
集落に迫るようにそびえる山を、PLフィルターを使うことによってよりハッキリとした質感で描写しました。
奥に行くにつれて青く霞む山も、空気遠近法的な奥行きを感じます。
暮らしの全景を撮る。集落俯瞰写真
ジオラマのような山間集落
長野県北部にて撮影。
谷沿いに続く集落。集落がどんな構造をしているのかを観察できます。
高い位置から見下ろすようにある集落を望遠で撮影すると、ジオラマのように集落の全景を写せます。
奥にも続く集落を写し込むことで、谷の奥行きも表現しています。
自然が描き出す曲線
山梨県峡南地域のある集落。
険しい山に挟まれた峡谷。狭い峡谷が続く山域ですが、河原の広くなった部分には集落が形成されています。
谷に現れた集落を、奥に続く渓流が描くS字のカーブと撮ることで流動感のある写真に。
自然の中にある曲線は、写真を美しくしてくれます。
古き良き生活を垣間見る。集落散策写真
集落の中にも素敵な風景はたくさん存在しています。
山腹にあった集落の一番山側にあった神社を覗いてみると、鳥居越しに向かいの山や点在する集落が眺望できました。
開けたところにある鳥居は、しばしば素晴らしい写真のエッセンスになります。
どんなに小さな集落でも必ずと言っていいほどお寺や神社があり、地域の文化とともに大切にされてきたことを感じます。
山梨県峡南地域のある集落。
かつて宿場として栄えた集落で、連なる赤い屋根が特徴的です。
集落内部に向かって石畳の道を行く人物を望遠で撮ることで、奥に連なる屋根との距離感を圧縮しています。
小さな集落の民家の壁に、昭和の雰囲気漂うブリキの看板が。
昔は集落内の貴重な小売店だったのでしょうか。農村の在りし日に思いを馳せつつ撮るスナップ写真には、他に無い味わいがあります。
夕暮れ時まで野良仕事をする農家さんと、遠くの街並み。まるで別の世界が隣り合っているような、不思議な風景にも思えました。
廃墟に在りし日を想起させる。廃村・廃集落写真
消滅へのカウントダウンが始まりつつある集落も、今の日本には数えきれないほどあります。
廃集落。確かにそこにあった暮らしに思いを馳せながら、写真に収めます。
廃屋の縁側。かつてはここに腰掛け、和やかな時間を過ごした住人がいたのでしょう。
歪み、乾燥し、朽ち始めた木の質感が、人がいなくなってからの時間の経過を物語ります。
倒壊した家屋。家のあった所にだけ、森にぽっかりと穴が開いています。
スポットライトのような光に家屋の破片が照らされ、えも言えぬもの悲しさを醸し出しています。
家財が散乱した廃屋。居間越しに見えた中庭にフォーカスを合わせ、奥に続く闇を強調しました。
覗き込もうと近づくと、どこからか物音がし、遠くに去っていきました。こういった廃屋は、しばしば獣の棲み処として利用されます。
倒壊した家屋。散乱した破片と、傾きながらも形を保つ格子戸に降り注ぐ光が、荒々しいコントラストを生み出しています。
撮影地の探し方と地形の把握
集落のような被写体は、最初に出した写真の白馬村青鬼集落や、合掌造りで有名な白川郷のようによく知られたスポットでない限り、なかなか探そうと思っても情報は得られません。
地図を見て山道を散策し、実際に集落と地形がどのような構造・配置をしているのか把握できないと、集落風景写真は撮ることが難しいです。
美しい山の斜面に集落が綺麗に並んでいたとしても、それを俯瞰し撮影できるできる地点が存在しなかったりします。
私は多くの場合、パソコンでGoogleマップを使って撮影地探しをします。上に作例で出した、下栗の里を例に説明してみましょう。
まず、マップ上で山間地域にある集落を探します。斜面にあって、まとまりのある集落が絵になりやすいです。
Googleマップでは、3Dで地図を見ることができます。機能を駆使して山と集落の構造を観察していきます。
いい構図を見つけました。手前には道路も通っており、樹間から集落を望めるかもしれません。このようにして、視点場を探していきます。
なお下栗の里には、歩いて行けるビュースポットがあります。
風景写真では構図も大事ですが、それ以前に視点場(ビュースポット)が重要となります。
歴史や文化を知り、その地に親しむ
集落の立地や構成は、その土地の風土に由来します。ただ撮って歩くだけでなく、なぜそこに暮らす人たちの集落が成立したのかを考えたり、調べたりしながら歩く楽しみ方もできます。
その土地の歴史や文化を知ることで、新たな発見も得られるかもしれません。
自分の好きなふるさとの風景を、一枚の写真にする
カメラを所有して写真を撮るならば、目で見て「いいな」と思った光景をいつまでも鮮明に残せるようにしたいものです。私にとってその一つが、日本の原風景、山村に残された集落の憧憬でした。
そして、自分以外の人にも写真の力で自分の「いいな」と思ったものを発信していけることが自分にとって最もやりがいのあることであることに気づきました。
今回の記事を読んで、集落風景に少しでも興味を持っていただけたら幸いです。是非自分だけのお気に入りの風景・ふるさとをファインダー超しに探してみてください。
今回の記事で使用した機材
フルサイズ一眼レフ Nikon D750
高い画質と豊かな階調性で風景を鮮明に描写してくれます。
マイクロフォーサーズ ミラーレス OLYMPUS Pen-F
軽量コンパクトで、散策したり長く歩く時でも気軽に持ち出せます。