自宅やオフィスにVPNを取り入れたはいいものの、「通信速度が遅い」とストレスを感じたことがある人はいるはず。せっかくVPNで通信のセキュリティを高めても、ダウンロードに時間がかかったり、サイトがなかなか開かなかったりするのは不便ですよね。
そこで今回は、VPNが遅い理由についてPicky’s編集部が徹底解説。それぞれの改善方法を一緒にまとめているので、VPNが遅いと感じたときはぜひ参考にしてみてください。
そもそもVPNの仕組みと速度に与える影響とは?
VPNのネットワーク速度への影響ですが、VPNの処理自体はまずデータの暗号化プロセスから始まり、元のデータパケットはAESなどの暗号化アルゴリズムによって暗号化されます。この際、データの機密性を保護するための暗号鍵が使用され、暗号化の処理には計算リソースが必要となるため、この段階で若干の遅延が発生することがあります。
次に、暗号化されたデータは新しいVPNパケットのペイロードとして扱われ、カプセル化が行われます。このプロセスでは、送信元・送信先のVPNゲートウェイアドレスなどの情報を含むVPNヘッダーが追加され、結果としてパケットサイズが増加することになります。カプセル化されたパケットは、インターネット上に確立されたVPNトンネルを通って送信されるため、このトンネルの両端ではパケットの認証や整合性チェックが継続的に行われ、安全な通信が確保されます。
これらの一連の処理により、ネットワーク速度には様々な影響が生じる可能性があり、暗号化と復号化の処理にかかるオーバーヘッド、カプセル化によって増加したパケットサイズが消費する追加の帯域幅、VPNサーバーまでの経路による追加的な遅延、そしてトンネル両端での認証処理などが要因となります。
もちろんこれらの影響を最小限に抑えるための様々な工夫が施されており、ハードウェアアクセラレーションの活用や、より効率的なプロトコルの採用により、パフォーマンスの最適化が図られています。高性能なVPNサーバーと適切な設定を組み合わせることで、実用的なネットワーク速度を維持することは十分に可能です。また、VPNプロバイダーの選択や設定の最適化によって、これらの影響をさらに軽減することができます。
このように、VPNによる速度低下は技術的には避けられない面がありますが、適切な実装と設定により、その影響を実用上問題のないレベルに抑えることが可能となっています。
VPNの速度が遅い理由と対処方法
ここでは、VPNが遅い理由8つと対処方法を紹介します。自宅やオフィスのネットワーク環境を確認して、当てはまるものをチェックしてくださいね。
原因①VPNサーバーに負荷がかかりすぎている
近年は、在宅勤務の増加や動画配信サービスの普及によって、インターネットを利用する人が増えています。そのため、同じVPNサーバーに利用者が集中しているとVPNサーバーに負荷がかかりすぎて速度が遅くなることがあります。
また、動画や画像が多いページを開いていても、VPNがサイト閲覧の処理をする時間がかかるので通信速度が低下する可能性が高いです。
サーバーに負荷がかかりすぎている場合は、PCやiPhoneなどのデバイスの再起動をするのがおすすめ。デバイスの再起動をすることで、不具合が解消でき、速度が改善する場合があります。在宅勤務で時間に融通が効くなら、インターネットを利用する時間帯を変えてみるのもいいでしょう。
原因②パソコンやルーターの処理性能が落ちている
パソコン・ルーター・モデムは、使い続けるうちに処理性能が低下してしまいます。特に、パソコンは複数のブラウザを同時に起動したり、キャッシュが徐々に増えてきたりすると、メモリを圧迫されて処理速度に影響が出ます。
そのため、定期的にパソコンのキャッシュを削除したり、ルーター・モデムを再起動したりして、端末の負荷を軽くしておきましょう。どちらも比較的簡単にできる作業なので、普段からこまめに行っておくと安心ですよ。
原因③プロバイダ側の不具合やメンテナンス
特に原因がないのにVPNの速度が遅いときは、プロバイダ側で不具合が起きていたり、システムのメンテナンスを行っていたりする可能性があります。「いつもはサクサク動くのに急に通信速度が落ちた!」という場合は、VPNサービスの公式ホームページやSNSからプロバイダの状況をチェックしてみてください。
原因④ウイルス対策ソフトが影響している
パソコンにウイルス対策ソフトなどをインストールしている場合、定期スキャンによって一時的に速度が遅くなったり、ソフト自体の負荷が大きすぎてパソコンの処理性能が低下したりすることもあります。
対策としては、インターネットを利用しない時間帯に定期スキャンを行う設定にしておくこと。また、思い切ってウイルス対策ソフトを負荷が軽いものに変えるのも1つの手段です。
原因⑤MTU・MSSの設定が適切でない
MTUは1度に送信できるデータの最大値で、MSSは1度に受信できるデータの最大値のこと。MTUやMSSの数値は、VPNサーバー・デバイス・VPNルーター・回線などによってさまざまです。
設定されているMTUより大きなデータを送信しようとすると、データを分割して送信→分割されたデータを受信→データを元に戻す、といった作業が行われます。反対に、MSSより大きなデータを受信しようとするとエラー反応が出て、MSSに合ったデータサイズに分割されて再送されます。
上記のように、MTUとMSSの数値が調節されていないと、再送やデータ処理に時間がかかり、通信速度が低下するのです。
最も手軽な改善方法としては、VPNのMTUに合わせてVPNルーターのMTUとMSSの設定を調節すること。そうすることで、VPN接続時は設定以上のデータを送れないようにでき、再送やデータ処理といった速度低下の原因を解消できます。
原因⑥OSアップデートが行われている
VPNが遅い理由の1つに、パソコンのOSアップデート中であることが挙げられます。OSとは、WindowsやMacといったパソコンの基本システムのこと。アップデート中は大量のデータをダウンロードするため、通信速度が大きく低下する傾向があります。
仕事中にVPNが遅くなるのが嫌な人は、OSアップデートの時間帯を見直しておきましょう。深夜などの仕事をしない時間帯に設定しておけば、速度の低下に困る心配がありません。
原因⑦VPNサーバーまでの距離が遠い
インターネットを利用する場所のVPNサーバーの位置が離れすぎていると、通信速度は遅くなってしまうので注意。例えば、日本のオフィスでVPNを利用するのに、VPNサーバーがアメリカなどの離れた場所にあったら、どうしても通信が届くまでに時間がかかります。
VPNサーバーは世界中に配置されているため、なるべく居住地に近いものを選びましょう。VPNの速度が気になる場合は、1度接続しているサーバーをチェックしてみてくださいね。
原因⑧契約している回線がそもそも遅い
契約しているインターネット回線がそもそも遅いという可能性もあります。
インターネット回線において、現在の主流は光ファイバー回線です。光回線は、従来のADSLや同軸ケーブルと比較して、はるかに高速で安定した通信が可能です。特にVPNを使用する場合、暗号化やカプセル化による遅延が発生するため、ベースとなる回線速度が重要になります。
具体的な回線選びでは、上り回線の速度にも注目する必要があります。多くのプロバイダーは下り回線の速度を謳いますが、VPNを介して大容量のデータをアップロードする場合など、上り回線の速度も重要になってきます。理想的には、上下対称の回線速度を提供するサービスを選択することで、より安定したVPN通信が可能になります。
また、ISPの選択も重要な要素です。同じ光回線でも、ISPによって実効速度や回線の混雑状況が大きく異なることがあります。
特に注目すべき点として、ピーク時の速度低下が少ないISP、IPv6対応が充実しているISP、そして独自のバックボーン網を持つISPは、VPN利用時により良いパフォーマンスを発揮する傾向があります。また、一部のISPではVPN通信に対する帯域制限を行っている場合もあるため、利用規約の確認も重要です。
回線とISPの選択に加えて、インターネット接続機器の性能も考慮する必要があります。最新の通信規格に対応したルーターを使用することで、VPN接続時の処理効率が向上します。特にVPNルーター機能を内蔵した高性能なルーターを使用する場合、暗号化処理の負荷を効率的に処理できます。加えてプロバイダーが提供するDNSサーバーの性能も、VPNの応答速度に影響を与えます。高速なDNSサーバーを利用できるISPを選択することで、Webサイトやサービスへのアクセスがよりスムーズになります。一部のISPでは、独自のCDNやキャッシュサーバーを運用しており、これらのサービスがVPN経由でのコンテンツアクセスを効率化することもあります。
将来的な拡張性も考慮に入れると、5G回線やその他の新しい通信技術への対応状況、料金プランの柔軟性、そして技術サポートの質など、長期的な視点での評価などの要素を総合的に考慮することで、VPN利用に最適なインターネット回線を選択することができます。
原因⑨契約しているVPNが遅い
契約しているVPNの通信速度が遅いと、他のVPNが遅くなる原因と併発した場合に、通信速度が大幅に遅くなりやすいです。特に、無料のVPNは速度が遅いものが多いので注意。他の原因を改善しても速度が速くならない場合は、VPNを見直しましょう。
利用しているVPNの速度が遅いかどうかはVPN使用時と非使用時のインターネット回線速度を比べることで判断することが可能です。VPNを使うと何%速度が低下するかチェックしてみて、50%以上速度が遅くなっている場合は品質の悪いVPNサービスと言えます。大手のしっかりしたサービスだと大体5%~20%低減ぐらいに抑えられますので気になる方は是非チェックしてみてください。
ちなみに、インターネット回線の速度は、「Fast.com」などの無料サイトで測定できます。回線速度は、一般的に10~30Mbps程度あれば問題ないとされています。「これって遅いの?」と気になったら、ぜひ調べてみてください。
社内ネットワーク用なら有料のVPNを利用しよう!
VPNには無料のものと有料のものがありますが、オフィスで使うなら有料のVPNがおすすめ。無料VPNに比べると、通信速度が安定しているのが有料VPNのメリット。また、セキュリティやサポートが充実しているものが多く、安心して業務に取り組めます。
無料VPNには、使用可能なデータ量が制限されているものや、広告が表示されるものもあるため、業務にはちょっぴり使いづらい一面も。1度に多くの従業員が接続すると、通信速度が遅くなってしまう可能性も考えられます。
ちなみに、VPNはセキュリティレベルが高いほど安全性が高まりますが、その分価格が高くなったり、通信速度が低下してしまうので注意。業務内容や従業員の人数などに応じて、適切なセキュリティレベルを備えたVPNを選びましょう。
VPNが遅いときの原因・対処方法のまとめ
- VPNが遅いときはパソコンやルーターに原因がある場合あり
- 契約しているネット回線やVPNの変更を検討してみるのも◎
- こまめにパソコンのキャッシュ削除や再起動を行うべし
この記事では、VPNの通信速度が遅いときの理由・対処方法をまとめました。VPNの速度低下には、パソコンやウイルス対策ソフトといったさまざまな原因が考えられます。ぜひ記事を参考にして、快適にインターネットを利用してください。